2024年夏、オランダのAZアルクマールからイングランド・プレミアリーグのサウサンプトンへ移籍した菅原由勢。その際の移籍金は約700万ユーロ(約11.2億円)と報じられました。
昨今の移籍市場の高騰を考えれば、日本代表の主力であり、欧州での実績も十分な20代前半の右SBとしては、驚くほど「控えめ」な数字です。しかし、2026年現在、彼はプレミアを経てドイツ・ブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメンでもその価値を証明し続けています。
なぜ、欧州のスカウトたちは彼を追い続けるのか?単なる「足の速いサイドバック」ではない、彼の真の凄さと、11.2億円という金額がなぜ“バーゲン価格”だったのかを、独自の視点で深掘りします。
現代SBの理想像?菅原由勢の「市場価値」の正体
まず、11.2億円という金額について再考してみましょう。結論から言えば、これは「安い寄りの妥当」、むしろ今の活躍を見ればバーゲン価格と言っても過言ではありません。
その最大の理由は、彼が単なる「上下動を繰り返すサイドバック」ではなく、「ビルドアップの出口」になれる知性を持っているからです。
私が忘れられないシーンがあります。AZ時代のヨーロッパ戦で、相手の猛烈なハイプレスを受けた際、菅原は迷いなくワンターンでプレスをいなし、正確なフィードで逆サイドへ展開しました。
「プレッシャー下で最適解を選び、一気に局面を打開できる」
この能力を持つSBは世界的に見ても希少です。23歳(移籍当時)という将来性を含めれば、11億円という投資で「チームのビルドアップの課題」を解決できるのは、スカウトにとってこれ以上ないお買い得物件だったはずです。
専門家も教えない、菅原が「1対1でやられない」本当の理由
多くのメディアは彼の「キック精度」を称賛しますが、私が注目したいのは彼の守備における「間合いの作り方」です。
通常、スピードのあるウイングを相手にする際、SBは「近づきすぎて抜かれる」か「離れすぎてクロスを上げられる」というジレンマに陥ります。しかし、菅原の守備をじっくり観察すると、ある特徴に気づきます。
- 「嫌がる距離」の逆算: 相手の利き足、体の向き、そして味方CBの位置を一瞬で計算し、相手が「仕掛けにくい」絶妙な間合いをキープし続ける。
- 誘導の技術: 体を微妙に半身にし、あえて「中に行かせる」か「縦に追い込む」かをコントロールしている。
これはコーチングで教えられるものではなく、実戦の中で培われた「センス」の領域です。プレミアやブンデスの怪物級ウイングを相手にしても、彼らが「菅原を抜き去るシーン」が意外と少ないのは、この目に見えない駆け引きで勝利しているからなのです。
プレミア・ブンデスで見えた「絶対に通用する武器」と「直面した壁」
サウサンプトン(プレミアリーグ)から、現在はヴェルダー・ブレーメン(ブンデスリーガ)へと舞台を移した菅原。この2つのリーグを経験したことで、彼のプレースタイルはさらに研ぎ澄まされました。
プレミアで証明された「出口」としての価値
プレミアリーグの速すぎるプレスに対し、菅原の「内側に入って中盤化する(偽SB)」動きや、ワンタッチでのパス交換は特筆すべきレベルでした。アーセナルの冨安健洋が評価された理由と同様、「ボールを失わないSB」としての価値は、現代サッカーにおいて絶対的です。
苦労したポイント:フィジカルの「継続強度」
一方で、課題も見えました。プレミアのウイングは90分間、常に100%のパワーとスピードで襲いかかってきます。 特にニューカッスルやブライトンのような、走力とフィジカルがセットになった相手には苦労する場面もありました。
しかし、ここで彼の真骨頂である「適応力の速さ」が発揮されます。
私が彼の「成功」を確信した、ある“表情”
私が菅原由勢という選手を心から応援したくなったのは、ある日本代表戦での出来事でした。
自分のミスから失点に絡んでしまった際、彼はカメラが捉えた一瞬、「自分の至らなさを噛み締めるような、非常に悔しそうで、かつ冷静に原因を反芻しているような表情」を見せました。
ミスを環境や運のせいにせず、自分の血肉として飲み込もうとする姿。
「自分の弱点を直視できる選手は、必ず化ける」
AZでの長年の安定した活躍も、このメンタリティがあればこそでしょう。サウサンプトンでの降格経験やブンデスでのスタメン争いも、彼にとっては「進化のための栄養素」でしかないのです。
【戦術分析】プレミアの怪物たちとの「相性」と、生き残るための適応戦略
世界最高峰のプレミアリーグにおいて、右SBの価値は「対峙するウイングを封じ込められるか」という一点に集約されます。菅原選手の能力を、対戦相手のタイプ別にシミュレーションしてみましょう。
● スピード型(三笘、ルイス・ディアス等):相性は「◎」
意外かもしれませんが、爆速系ウイングとの相性は悪くありません。菅原の真骨頂である「間合い管理」と「コース限定」が最も生きるからです。足を出して飛び込まず、相手を袋小路に誘導する守備は、かつて冨安選手がプレミアで絶賛されたスタイルに近いものがあります。
● パワー型(アダマ・トラオレ、ボーウェン等):相性は「△〜○」
90分間フィジカルの強度をぶつけてくるタイプには、流石の菅原も苦労する場面があります。しかし、彼は「正面衝突」を避け、体の向きひとつで相手の力をいなすのが非常に上手い。強度の差を「知性」で埋める、彼らしい対応が期待できます。
● 偽ウイング(ベルナルド・シウバ等):相性は「★」
中に入ってくる技巧派に対しては、菅原はプレミアでもトップクラスの適応を見せます。自身が中盤の役割を理解しているため、パスコースを消しながら守る「フィルター」としての能力を発揮できるからです。
日本代表での役割はどう変わる?「久保建英との化学反応」の深化
プレミア・ブンデスと渡り歩くことで、日本代表における彼の序列と役割も新たなフェーズに入ります。
- 「右SBの第一選択肢」の確立 激戦区の右SBですが、プレミアのインテンシティに慣れた菅原がレギュラーを張ることで、ディフェンスラインの基準値そのものが引き上げられます。
- 「偽SB」による戦術的アップデート これまでの森保ジャパンでは「右は幅を取る」形が主流でしたが、菅原が内側でビルドアップを助ける形が可能になれば、中盤に数的優位を作れます。
- 久保建英との「史上最強の右サイド」 内側に入りたがる久保に対し、菅原が「外を追い越す」だけでなく「内側でリンクマンになる」という二択を突きつけることで、相手DFは的を絞れなくなります。
まとめ:菅原由勢の未来は「日本代表の戦術的キーマン」へ
菅原由勢の本質を一言で表すなら、「派手さよりも、チームを勝たせるための最適解を選び続ける知性」です。
特に日本代表において、右サイドで久保建英と組む際、彼が「外を回る」のか「内側でサポートする」のかを瞬時に判断することで、久保の自由度は倍増します。この「阿吽の呼吸」は、プレミアやブンデスという最高峰の舞台で、彼が知性を磨き続けてきた結果に他なりません。
11.2億円という金額は、あくまで過去の評価。 今の彼がピッチで見せている「戦術を動かすプレー」には、その数倍の価値が宿っています。
次に彼が大きな移籍を果たす時、その金額は日本のサイドバック史上最高額を塗り替えるものになっているはずです。



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