カスハラ防止条例(法律)の全貌と影響

カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する防止条例や法律は、近年、社会問題として認識が深まる中で、各自治体や業界団体が対策に乗り出しています。しかし、現時点で全国統一の「カスハラ防止法」 は存在しないものの、労働安全衛生法や労働基準法に基づき、労働者の安全や健康を守る観点から法的な枠組みが構築されています。

→厚生労働省は2024年12月16日、全ての企業に対し、顧客らが理不尽な要求をする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)から従業員を保護する対策を義務付ける方針を示した。就職活動中の学生へのセクハラ防止策も義務とする。深刻化するハラスメント対策を強化し、安心して働ける職場環境をつくる。2025年の通常国会で関連法案提出を目指しています。

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1. カスハラ防止に関わる法的根拠

① 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)

2020年に施行されたパワーハラスメント防止法では、職場内のハラスメント防止が義務付けられています。これには顧客や取引先からのハラスメント対策も含まれています。

  • 事業者の義務:労働者の安全と健康を確保するため、ハラスメント防止策を講じること。
  • 関連内容:事業主には、カスハラを含むハラスメントへの対策として、
    • 相談窓口の設置
    • 再発防止策の検討
    • 従業員への教育と周知
      などが求められます。

② 労働安全衛生法

労働安全衛生法では、職場における労働者の安全や健康の保持を義務付けています。

  • 顧客からの精神的・身体的危害(暴言、威圧、暴力)に対して、事業主は安全な就業環境を守る責任があります。
  • 対策例:カスハラによる精神的負担や健康障害を防止するため、適切な対応が必要です。

③ 刑法・民法による対処

カスハラ行為が悪質な場合は、刑法や民法によって法的責任を問うことができます。

  • 刑法
    • 脅迫罪(刑法222条):相手を脅して恐怖を与えた場合。
    • 暴行罪(刑法208条):身体的な暴力を振るった場合。
    • 業務妨害罪(刑法233条・234条):威力や偽計で業務を妨害した場合。
  • 民法
    • カスハラ行為によって業務が妨害され、損害が発生した場合、民法に基づいて損害賠償請求を行うことができます。

2. 自治体によるカスハラ防止条例の動き

一部の自治体では、カスハラ防止に向けた条例や方針が制定されつつあります。

事例:兵庫県明石市の「カスハラ防止ガイドライン」

兵庫県明石市は全国に先駆けて、2022年にカスタマーハラスメント対策として「カスハラ防止ガイドライン」を策定しました。

  • 目的:公共機関や民間事業者が、カスハラから従業員を守る体制を整えること。
  • ガイドライン内容
    • カスハラ行為を具体的に定義し、悪質な場合には警察と連携する。
    • 相談体制の整備や、職員・従業員への教育を実施することを推奨。
    • 事業者への支援や対策の呼びかけ。

このような動きは、他の自治体にも広がりつつあり、今後の法制化の先例となる可能性があります。


3. 企業への影響:法的・社会的責任

カスハラ対策が義務化される中、企業は以下のような責任を果たす必要があります。

① 従業員の安全と健康の確保

  • 従業員がカスハラによって精神的・身体的ダメージを受けないように、安全配慮義務を徹底する必要があります。

② 相談窓口・対策フローの設置

  • カスハラを受けた際の対応マニュアルを整備し、相談窓口を設置する。
  • 被害を受けた従業員へのメンタルサポートや休職制度も検討する。

③ カスハラを行う顧客への毅然とした対応

  • 悪質な顧客に対しては、対応拒否や警察・法的機関への通報を躊躇しない姿勢が求められます。

4. 社会全体への影響:意識改革の必要性

カスハラの根絶には、顧客側の意識改革も不可欠です。

  • 企業や自治体が「カスハラは許されない」という姿勢を明確に示し、社会全体での理解を深めることが重要です。
  • メディアや教育を通じて、適切なクレーム対応や顧客マナーの啓発活動を進める動きも求められます。

5. 今後の課題と展望

① 全国統一のカスハラ防止法の制定

現状では、カスハラ防止に関する法的枠組みは不十分です。
今後は、全国的に統一された**「カスハラ防止法」** の制定が求められています。

② 企業・従業員へのサポート強化

  • 被害を受けた従業員に対するサポート体制の強化。
  • カスハラ対応の研修やトレーニングの実施。

③ 社会的な認識の向上

  • 「顧客は神様」という古い価値観を見直し、従業員の尊厳と働く権利を守る社会の実現が必要です。

まとめ:カスハラ防止条例・法律の影響

カスハラ対策は、企業・自治体・社会全体が連携して取り組むべき課題です。

  • 労働安全衛生法やパワハラ防止法を根拠に、従業員の安全を確保する。
  • 自治体レベルでの条例やガイドラインが先行し、今後の法制化が期待される。
  • 企業は、従業員の保護を最優先に、毅然とした対応とサポート体制を強化する必要があります。

カスハラは従業員の人権や尊厳を侵害する行為です。法的枠組みと社会的な意識改革を通じて、働く人々が安心して業務に専念できる環境の実現が求められています。

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